化学教育・ひとりごとNo.5(2006.2.23)   「『学力の国際比較』考」

 やや旧聞に属するが2004年の暮れ、15歳児のOECD学力国際比較結果が公表された(日本の被験者は4,700名ほど)。
2000年と比べ、科学リテラシーは2位のままでも、数学リテラシーが1位から6位に、読解力が8位から14位に落ちたという。
某新聞が2005年1月、「学力低下が明確になった」と題する社説を載せ、日本の小中学生は世界のトップ集団から脱落した‥‥ゆとり教育のツケである‥‥と論じた。そうなのか?

その調査、じつはたまたま楽屋裏をのぞく幸運(?)に出くわした。
OECD本部から届いた英語の分厚い原本を、担当部署が翻訳業者に丸投げする。
業者から上がってきた訳文を、何人もが手分けして検討したうえ、最終版に仕上げる。
私は数十ページ分を担当したと思う。

業者の訳文はそうとうひどかった。理科用語を知らないとおぼしい人の訳文もあるし、意味が正反対になっていた箇所もある。
私自身は真っ赤にして返したけれど、後日の検討会でチラチラ見たかぎり、ほとんど赤を入れていない人もいた。

たとえばこんな問題(私の担当外です)が出題されている:

浩二さんはスケートボードが大好きです。
彼はスケボーファンという店に値段を調べにやってきました。
この店では、既製品のボードを買うこともできますが、デッキ1個、車輪4個のセット、トラックの2個セット、金具のセットを別々に買って、オリジナルのボードを組み立てることもできます。

    店の商品の価格は次の通りです。
      商 品         価 格(ゼット)
      デッキ          42, 60, 65
      車輪4個のセット     14, 36
      トラック2個のセット   16
      金具           ‥‥

 ‥‥という前提で、「いちばん安上がりの買いかた」と「いちばん高い買いかた」を問う。
要するに足し算の力を問うだけの話だが、気にかかるのは「デッキ」「車輪」「トラック」なる用語。
ふつう「デッキ」は「板」だろうし、「車輪」は「コロ」? 「トラック」とは何だろう?
(私自身、いまだにわからない)。
また、貨幣単位を仮想の「ゼット」にする必要はあったのか?

生徒たち(の少なくとも一部)は、こうした用語の意味を考えあぐね、首をひねり、えい面倒だと投げたのでは? 
案の定、わが生徒たちの成績(58.5点)は、最高点のフィンランド(85.2点)はおろか、OECD全体の平均(72.0点)にも遠く及ばず、ビリに近かった。

 そもそも、足し算力を問う問題ならば、お見舞いに持っていく果物の詰め合わせか何かに翻案し、それぞれ値段の違うリンゴやミカン、バナナ、メロンを素材に(むろん「円」単位で)計算させてもよかったはず。

 一斑を見て全豹を卜(ぼく)するつもりはないが、この「学力比較」では、訳文をチェックした方々の日本語センスが成績にだいぶ響いたのではないか。
そんな試験の結果だと称する数字がひとり歩きして昨今、「ゆとり教育よサラバ」ふうの大きな動きが急に沸き起こってきたような気がする。
少々まずい。   

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